東京大学アルスノーヴァ
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概要:
「東京大学にアートスクールができる」——この一文に驚く人もいるかもしれません。なぜ総合大学が「アート」教育に手を伸ばそうとするのでしょうか。それはいま私たちが生きる社会の複雑さと息苦しさを鑑みるとき、本当に必要なのは、問題を場当たり的に解決する「正解」ではなく、そもそもその問いをどう立て直すかを一緒に考え、試行錯誤をしながら実際に作り出す仕組みだからです。そして「アート」こそは、社会や世界にすでに設定された土俵の上で展開するニーズだけではなく、そのような土俵そのもの自体を問い直すという関心に駆動された営みだと考えるからです。《アルスノーヴァ(Ars Nova)》は、まさにそのような取り組みのための場所として、東京大学のなかに立ち上げられる、新しい学びと制作のフォーラムです。

「アート(art)=芸術」とは、そもそも明示的な目的を持たない営為でありながら、その不確定性によって感覚や思考の新たな回路を開いてきた実践です。《アルスノーヴァ》では、「ビジネスで使えるアート思考」のように「アート」という言葉があまりに広く使われ、あるいはあまりに軽く扱われるいま、それを根底に立ち戻って考え直すことで、そのポテンシャルを再定位することを試みます。そのためにまず「アート」を「目的を達成するためのルールの体系」を意味する「アルス(ars)=術」というラテン語の語源にいったん差し戻します。身体を動かす術、音を奏でる術、物質と交信する術、出来事を記録する術、未来を感じとる術、他者と関係を結ぶ術——それぞれのアルスを丁寧に観察し、解析し、体得し、問い直していきます。そのようにして個別のアルスを深めていくことで、むしろ私たちは再び「アート」の必要性に直面します。アルスでありながら明確な目的を持たない「逆説的なアルス」として諸アルスの体系を内側から撹乱しつつ、アルスとアルスをつなぎなおす依代/媒介としてアートが再召喚されるのです。

このようなアートは、ジャンルや業界の名で語られるものではなく、他(者)の経験を(追)体験する広義の営みとして思い描かれます。異なる感性を持つ他者への想像力と尊敬をその根底に持つため、差別や格差の問題に取り組み、勝てば官軍的な「正しさ」を批判する土台となります。ビジネスに役立つ創造性のような短絡的目的に還元されるどころか、経済合理性や成長至上主義を揺さぶり、資本主義そのものをくつがえす力を秘めています。《アルスノーヴァ》はこうした理解に基づき、アートをアルスへと解きほぐし、もう一度つなぎ直すことで、「いまここ」を相対化し、短期のリターンに絡め取られない未来をともに作り出していくためのプログラムです。